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農事組合法人とは?特徴やメリットをご紹介!

カテゴリ:税務・経理・決算

/公開日:2019年9月4日

近年、農業改革が叫ばれていますが、その一助となるかもしれない形態が農事組合法人です。
特有の売上形態や経費、補助金、また税務的な利点がります。
今回は農事組合法人についてご紹介致します。
会計

農事組合法人とは

農事組合法人は、農業生産の協業を図るための農業協同組合法に基づく法人で、その共同の利益を増進することを目的としています。

そのため、農事組合法人の行うことができる事業は農業に関連するものに限られており、組合員となれるのは原則として農民となります。

個人が農地を保有する農地所有適格法人となるにあたり、法人の種類として会社法人と農事組合法人の2つがあります。

会社法人と農事組合法人の違いは、1人で法人化することができず、農民3人以上が発起人となって農家全体のための協業化を図るために設立することが目的とされます。

農事組合法人の売上とは

農事組合法人が行うことができる事業は、大きく分けて次の2つと、その事業に附帯する事業であり、それぞれ売上に係る販売経路が異なります。

事業内容は第1号事業又は第2号事業の一方を行う事業、両方を行う事業のどちらも認められていますが、第2号事業を行うためには農事組合法人が出資組合である必要があります。

第1号事業

  • 農業に係る共同利用施設の設置
  • 上記の共同利用施設を利用して行う、組合員の生産する物資の販売
  • 農作業の共同化に関する事業

第1号事業における販売経路は、道の駅等の施設を設置し、一般消費者向けの生産物を販売するものです。

第2号事業

  • 農業の経営
  • 農事組合法人の行う農業に関する事業で次のもの
  • 農畜産物を原料又は材料として使用する製造又は加工
    農畜産物の貯蔵、運搬又は販売
    農業生産に必要な資材の製造
    農作業の受託

  • 農業と併せて行う林業の経営

第2号事業における販売経路は、農協等への卸売りとして、生産物を販売するものです。

農事組合法人の経費とは

他の法人と同様に、その事業の売上のために支出したものは経費として認められますが、農業独自の経費が農事組合法人には認められています。業界独自の経費を一部ご紹介致します。

種苗費、肥料費、燃油費

これらは農作物の生産に必要なもので、種苗費は農作物の種や苗の購入に係った費用、肥料費は農作物の育成のために散布した肥料の購入に係った費用、燃油費は農作物育成のためのビニールハウスの暖房や照明器具等に使用した燃料の購入に係った費用です。

販売する農作物の製造原価のうちの材料費に該当をし、生産過程で消費がされるため、期末に在庫の棚卸をすることが必要です。

減価償却費

減価償却費は他の法人においても資産を購入した際に、その資産を購入時の年度に一括して費用に計上をするのではなく、耐用年数に渡り減価償却を行い、費用を各年度に按分して計上することが求められています。

農事組合法人では、農業に使用するトラクターやコンバイン等の他の業種では使用しないような機械や、第1号事業である農業に係る共同利用施設の設置を行った施設等について、減価償却費を計上することが必要です。

保険料

保険料は他の法人においても、退職金の準備に備えた保険や取引先の倒産に備えた保険等に加入を行い、その支払った保険料は経費に計上することが認められています。

農事組合法人では、農業独自の農作物の市場価格の下落、自然災害による損失等に備えた農業保険に加入することが出来、大きく分けて収入保険と農業共済があります。

収入保険とは農業者の努力だけでは避けることの出来ない収入減少を広く補償するものであり、農作物販売収入全体が保険の対象です。保険期間の収入が過去5年の平均収入の9割を下回った場合、下回った額の9割を上限として補填がされます。

農業共済とは、農作物、家畜、果樹、畑作物及び園芸施設を対象とし、その中での限られた品目に対して収穫量が減った場合に補填がされます。

農作物においては水稲、陸稲、麦が対象です。収穫量が平年に比べ一定割合以上に減少した場合、農業者が予め選択をした9~5割の間である補償対象とする減収量に対して共済金が補填されます。

農事組合法人のメリット

農事組合法人として農業を行うことで、個人経営との様々な違い、メリットがあります。

信用力の拡大

個人経営よりも法人として活動を行うことの方が、一般的に信用力が高く、新規顧客の開拓を行う際、銀行からの借入を行う際等、信用力の高さは様々な点において有利となります。

また個人経営では家計と事業帳簿とが混同してしまい、どんぶり勘定となりがちですが、法人経営においては家計と事業を明確に区分する必要が一層要求されます。

経営者の財務管理の意識改革と共に、個人と比較して信用力の高い財務諸表の作成が行えることも想定されます。

後継者の確保がしやすくなる

個人経営の場合、親族のみで経営を行うことが一般的ですが、農事組合法人として他の農民と協業したり、従業員を雇用していたりすることで、多くの人と繋がりを持つことが出来ます。

親族から後継者が確保出来ない場合において、個人経営よりも多くの人と繋がりを持つことの出来る農事組合法人であることの方が、後継者の確保がしやすく、廃業を選択することなく農業の発展に寄与し続けることが可能となります。

販売経路が広がる

個人経営の場合、個人で生産の出来る範囲の決まった種類の農作物の販売となるため、個人で販売を行うにはその農作物の購入希望者にしか目に留まることはありません。

しかし農事組合法人として他の農作物を販売する農民と協業を行い、共同利用施設の設置を行うことで、互いの既存客の目に触れる機会が増え、新たな顧客や販売経路の確保に繋がります。

近年ではインターネットでの農作物の販売も盛んです。ポケットマルシェのような全国の生産者から一般消費者が農作物を購入することの出来るWebサイトもあります。

このサイトを生産者が利用する利点は、全国の多くの人の目に触れる機会が増える事から、売上増加が見込めること、注文管理や伝票作成等はインターネット上で完結し、対面販売よりも手間が少ないことなどが挙げられます。

このWebサイトのように、協業を行うことで、様々な農民のアイデアや知識を得ながら、互いに売上を増加させるための仕組みづくりをすることが出来ます。

多くの情報を得ることが出来る

個人経営の場合、限られた人との繋がりであることから、得られる情報は多くはありません。

しかし農事組合法人として他の農民と協業することで、多くの人との繋がりを得ることで生産に関する事項や経営に関する事項等、様々な情報を得ることが可能となります。

農業の業界では、現代農業、日本農業新聞等の業界誌があります。既に発刊されている業界誌を読むことでも知識を得られますが、農事組合法人内で組合誌を作成し、情報を交換する仕組みづくりをすることも出来ます。

剰余金の配当が出来る

個人経営の場合、利益は個人の所得となり、再配分をされることはありません。しかし法人の場合は利益を再配分し、剰余金の配当を行うことが出来ます。

配当は株式会社であれば、株式の保有数に応じて配当金を法人が株主に対して支給することが出来ますが、同様に農事組合法人も剰余金の配当を行うことが出来ます。

剰余金の配当方法は、施設等の利用の程度に応じて支払われる配当である利用分量配当と、法人の事業に従事した日数、労務の内容に応じて支払われる配当である従事分量配当と、出資金の額に応じて支払われる配当で、年7%以内と定められている出資分量配当があり、いずれも組合員に配当を行うことが出来ます。

補助金の受け取りが出来る

個人経営、法人経営共に、どちらも農業に関する補助金は沢山ありますが、同様の補助金制度でも個人よりも法人の方が受け取れる補助金の額が大きい等のメリットがあります。

また法人だけに認められる補助金もあります。例えばスマート農業加速化実証プロジェクトでは、法人のみが対象であり、現在の技術レベルで最先端となるロボット・AI・IoT等の技術を生産現場に導入し、理想的なスマート農業を実証する取組等を行う法人に補助金が支給されます。

農事組合法人が補助金を受け取った場合は、一般助成収入に該当し、法人の収益となります。

融資の限度額が大きくなる

個人経営、法人経営共に、農業制度融資の制度がいくつか設けられています。融資のひとつに農業経営基盤強化資金があります。

農業経営基盤強化資金とは、日本政策金融公庫資金であり、貸付限度額が大きく償還期間が長期にわたるなど、大規模な投資に向いているものであり、貸付対象者は個人、法人共に認定農業者です。

資金の使途は農地等の取得、改良や農業経営用施設の改良、造成、取得や借地権、施設等の利用権、特許権その他無形固定資産の取得や農業経営の改善を図るのに必要な長期資金等、幅広く認められています。

償還期間は25年以内であり、その利率は0.07%です。
使途や償還期間は個人、法人どちらも同じ条件ですが、借入の限度額が異なります。個人経営は3億円以内、法人経営は10億円以内です。

よって、個人よりも法人の方が多額の借入金を受け取ることが出来、借入金によって事業規模を大きくする場合には、法人の方が有利となっています。

消費税の還付を受けることが出来る可能性が高い

個人経営、法人経営共に、課税売上高が1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になります。消費税の還付を受けるためには、課税事業者であり、かつ売上から預かった消費税よりも経費から支払った消費税が大きい必要があります。

個人経営では、まず課税売上高が1,000万円を超える規模での経営が難しい場合があります。課税事業者に該当をしないと、消費税を納める義務もありませんが、一方で消費税の還付を受け取ることが出来ません。よって売上から預かった消費税よりも経費から支払った消費税が大きい場合でも、消費税の還付を受け取ることは出来ません。

一方で法人では、農事組合法人全体の課税売上高で課税事業者に該当をするか判断を行うため、課税事業者に該当をしやすいです。また売上から預かった消費税よりも経費から支払った消費税が大きくなる可能性が高くなります。

その理由として、まず農事組合法人の収入には農作物を販売して売上を行った課税売上と、補助金収入である非課税売上があります。補助金収入は消費税を預からない収入と考えるため、農事組合法人の収入全体のうちの預かった消費税は少なくなり、消費税が還付される可能性が高くなります。

また、一般の法人が支払う給与は非課税仕入であり、消費税を支払わない経費と考えます。一方で農事組合法人が組合員に支払う従事分量配当は、課税仕入であり、消費税を支払う経費と考えます。

よって同じように従事する人に支払う経費でありながら、農事組合法人が組合員に支払う従事分量配当の方が、支払った消費税が大きくなり、消費税が還付される可能性が高くなります。

所得税と比較すると法人税率が低い

個人経営の場合、所得税が課税をされますが、個人の所得が800万円である場合、その所得税率は23%です。

一方で農事組合法人の所得が800万円である場合、法人税率は19%であるため、法人の方が税率は低いといえます。

欠損金の控除期間が長い

個人経営の場合、所得税の申告において事業の赤字が発生した場合、その赤字は翌年以降に繰り越すことが出来、翌年以降の黒字と相殺することが出来ますが、その繰越欠損金の繰越期間は3年間です。

一方で農事組合法人の場合、法人税の申告において繰越欠損金の繰越期間は10年間であり、法人の方が欠損金の控除期間が長いといえます。

個人所得税の節税効果が見込むことが出来る

個人経営の場合、事業によって生じた事業所得が個人の収入であり、利益が800万円である場合は事業所得の800万円に課税がされ、その所得税率は23%です。

一方で農事組合法人から給与を受け取った場合、給与所得が個人の収入であり、給与収入がある場合は給与所得控除を差し引いた給与所得の600万円に課税がされ、その所得税率は20%です。

このように所得計算の計算方法が事業所得と給与所得では異なるため、同じ収入であっても、農事組合法人から給与を受け取る方が、節税効果は見込むことが出来ます。

任意の決算期を選択することが出来る

個人経営の場合、1月1日から12月31日までに生じる所得についての申告期限は翌年3月15日であり、これは全ての個人が同様の期限となります。

一方で農事組合法人の場合は、任意の決算期を選択することが出来、期末から2ヶ月以内に法人税の申告を行うこととなります。

農事組合法人のデメリット

農事組合法人を設立するメリットは多いですが、デメリットも確認する必要があります。

法人住民税の負担

個人経営の場合、事業が赤字となり所得が無い場合は、納めるべき所得税はありません。しかし法人経営の場合、事業が赤字となった場合であっても、法人住民税の均等割である7万円が毎年課税をされます。

社会保険料の負担

個人経営の場合も、健康保険、厚生年金の適用業種であれば5人以上の従業員を雇用している場合は、健康保険、厚生年金に加入しなければいけませんが、法人経営の場合は業種や従業員数に関わらず健康保険、厚生年金の加入が必要です。

法人が健康保険、厚生年金に加入をすると、その保険料は会社と従業員の労使折半で納める必要があり、法人が負担すべき経費が増加することとなります。

会計処理の負担

個人経営の場合は正規の簿記の原則に沿った貸借対照表、損益計算書を作成することで確定申告書を作成することが出来ますが、法人経営の場合はそれに加えて企業会計原則に沿った法人特有の会計処理が必要となります。

個人よりも複雑であり、また会計処理を会計事務所等に依頼を行う場合には、法人が負担すべき経費が増加することとなります。

期末から申告期限が短い

個人経営の場合、期末を選ぶことは出来ませんが、期末である12月末日から所得税の申告期限まで約2ヶ月半の間があります。

一方で農事組合法人の場合、期末を任意に選択することが出来ますが、期末から法人税の申告期限は2ヶ月であり、農事組合法人の方が期末から申告までの日程管理が厳しいものになります。

まとめ

農事組合法人についてご紹介を致しました。個人経営で農業を行うことよりも様々なメリットがあり、今後の農業の発展を考えるのであれば、非常に有効な事業のあり方であるといえます。

愛知県の場合、農事組合法人の税務申告を行ったことのある税理士事務所は少ないかもしれません。しかし弊社には農事組合法人の税務申告を行ったことのあるスタッフがおりますので、農事組合法人の設立をお考えの方や、農事組合法人に詳しいスタッフがいないため現在の税理士サービスに不安を感じている方等に、適切にアドバイスが出来ると考えております。
是非お気軽にお問い合わせくださいませ。

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