融資審査で否決?緊急資金の調達ができる受取手形割引について解説
カテゴリ:税務・経理・決算
/公開日:2019年3月11日
売上代金を手形で受け取った場合には、手形割引により資金調達ができます。審査スピードが融資よりも早いため、緊急資金の調達に優れているのが特徴です。
しかし、一歩間違えると手形の不渡りにより、資金繰りに窮する可能性があります。
そこで、手形割引の仕組みを中心としてアウトライン、手形割引のメリット・デメリット、手形の不渡りに合わないための企業信用調査の方法、取引先の倒産に備えた経営セーフティ共済について説明します。
手形割引とは?
まずは手形割引のアウトラインについて説明します。
手形割引の仕組み
そもそも手形割引とは、銀行の統一用紙による手形の割引のことを指します。商取引により受け取った受取手形を支払期日の到来前に銀行または手形割引業者に対して売却し、割引料を差し引いた残額を資金調達します。具体的には次の手順で手形割引が実施されます。
(1)商品の売却やサービスの提供の代金を現金の代わりに手形を受け取る
(2)上記(1)の受取手形を金融機関または手形割引業者が支払期日前に売却する
(3)金融機関または手形割引業者が受取手形を買い取り、額面金額から金利に相当する割引料を差し引いた残額を資金調達する
(4)割引された受取手形の額面金額は、支払期日に振出人(手形で支払った人)の当座預金の口座から引き落とされ、支払地の金融機関へ取立により決済される
上記(4)が完了した時点で、手形割引の一連の取引が完結します。
手形割引とでんさい割引
手形割引と合わせて知っておきたいのが「でんさい割引」です。でんさい割引とは、電子記録債権の割引のことを指します。手形割引と比較した、でんさい割引のメリットは次の通りです。
(1) 手形割引の際には分割利用ができる
たとえば、代金100万円を受け取ったとします。手形割引の場合、受取手形の全額を割引しなければならず、100万円に対する割引料がかかります。一方、でんさい割引の場合は電子記録債権100万円のうち、50万円だけ分割利用して割り引くことが可能です。
(2)紛失のリスクがない
銀行の統一用紙の手形が紙媒体のため、紛失するリスクがあります。しかし、でんさいにはインターネット上で管理されているため、紛失のトラブルは発生しません。
金融機関と手形割引業者の違い
そもそも手形割引業者とは、ノンバンク(貸金業者)のことを指し、金融機関との違いは次の通りです。
項目 | 金融機関 | 手形割引業者 |
---|---|---|
審査基準 | 決算書などにより、手形割引を依頼した企業の信用状況を審査する | 手形の振出人の信用状況を審査する(手形割引を依頼した企業の審査はしない) |
審査スピード | 1週間程度 | 最短即日 |
担保 | 預金や不動産の担保が要求される | 原則不要 |
割引枠 | 割引枠が設定され、枠の増額が可能 ただし、枠を増額する場合は担保を追加で差し出す必要がある |
受取手形の額面金額(基本的に上限なし) |
割引率 | おおむね1.5~5.5% | おおむね3.0~20.0% |
対応時間 | 金融機関の営業時間(平日9時~15時) | 夕方まで対応 |
割引率は金融機関のほうが安く、審査スピードは手形割引業者のほうが早い傾向にあります。そのため、手形割引をする場所はコスト削減なら金融機関、緊急資金を調達するなら手形割引業者を選ぶのがポイントといえます。
手形割引のメリット
金融機関からの融資と比較した場合、手形割引のメリットは次の通りです。
(1)緊急資金の調達に優れている
支払期日前に手形割引ができ、審査スピードが融資より早いのが特徴です。
(2)手形割引業者を依頼する場合は企業の信用が問われない
たとえ業績が悪い企業でも、振出人の信用度が高い受取手形さえあれば、手形割引業者からの資金調達が可能です。そのため、金融機関から手形割引や融資を受けることが難しくても、資金調達が可能になります。
手形割引のデメリット
受取手形を支払期日の到来日で現金化する場合と比較したデメリットは次の通りです。
(1)割引料がかかる
支払期日前に資金調達をするため、手形割引日から支払期日の到来日までの間の金利に相当する割引料を負担します。割引率は信用度に左右されます。
(2)不渡りのリスクあり
手形割引をしても、手形の振出人が不渡りを出した場合には、資金調達した金額を金融機関または手形割引業者に返金しなければなりません。
特に上記(2)に陥った場合、資金繰りの苦しい企業は返金資金の調達のために、高金利のビジネスローンなどから借り入れをしなければならない可能性があります。
そのため、振出人の信用度の見極めが手形割引のポイントになってきます。
企業信用調査の方法
振出人の信用調査の方法はさまざまですが、精度の高い調査方法を紹介します。
帝国データバンク
帝国データバンクの企業信用調査は調査対象企業に出向いて「現地確認」を実施します。現地確認では、経営陣への直接取材、実質本店の確認、現況と将来の展望、財務情報の把握をし、分析します。
なお、会員制サービスのため、事前に入会が必要となります。
東京商工リサーチ
東京商工リサーチの企業信用調査も、帝国データバンクと同じように調査対象企業に出向いてヒアリングをし、「企業の総合評価」と「業績・資金情報」を把握・分析します。
なお、スポットで利用する企業や年間複数回のみ利用する「TSRポイント会員」の企業に対して、リーズナブルな価格で情報を提供しています。
一般社団法人建設業情報管理センター
建設業を対象にし、会員企業の経審(経営事項審査)結果がンターネット上で閲覧できます。審査項目は(1)経営規模、(2)経営状況、(3)技術力、(4)その他の審査項目「社会性等」であり、入札に参加しようとする建設業者が入札の資格や条件をあるかどうかの審査が目的です。
年商や経常利益などの業績はもちろん、社会保険の加入の有無なども分かります。
合わせて知っておきたい経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
現時点で安全な取引先から手形を受け取っても。将来倒産する可能性があり得ます。前述の通り、「不渡り=金額返金」です。そこで、取引先の倒産に対するリスクヘッジとして、経営セーフティ共済について説明します。
無担保・無保証人・無利子で掛金の10倍まで共済金の借り入れができる
取引先が倒産した場合、掛金の10倍まで共済金の借り入れができます。借入可能額は被害額(貸倒れの金額)または掛金総額の10倍に相当する金額のうち、いずれか低い金額になります。借入設定額は50万円から8,000万円まで、5万円単位での設定が原則です。
返済期間は5年~7年であり、6ヵ月間の据え置き後、均等分割により毎月返済をします。
また、共済金の借り入れができる条件は次の通りです。
- 法的整理
- 取引停止処分
- でんさいネットの取引停止処分
- 私的整理
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払不能
- 特定非常災害による支払不能
ちなみに、夜逃げ倒産は共済金の借り入れの対象から外れます。
取引先の倒産以外にも無担保・無保証人・低金利で資金調達ができる
取引先が倒産していなくても、低金利で資金調達が可能です。それが「一時貸付金」です。利率は年0.9%であり、解約手当金の95%を上限として借入れをすることができます。借入限度額は掛金納付月数に応じて、次の通りです。
掛金納付月数 | 一時貸付金の借入限度額 |
---|---|
1か月~11か月 | 0円 |
12か月~23か月 | 掛金総額×75%×95% |
24か月~29か月 | 掛金総額×80%×95% |
30か月~35か月 | 掛金総額×85%×95% |
36か月~39か月 | 掛金総額×90%×95% |
40か月以上 | 掛金総額×95%×95% |
掛金総額が800万円の場合 | 800万円×100%×95%(760万円) |
また、返済期間は1年であり、返済方法は期限一括返済です。
信用調査報告書を見るポイント
帝国データバンクと東京商工リサーチの信用調査報告書を見るポイントについて説明します。
帝国データバンク|企業信用調査報告書
帝国データバンクが奨励する企業信用調査報告書を見るポイントは次のステップを踏みます。
(1)ステップ1:【企業概要欄】で総合的な評価を見る
信用要素別評価に基づき、信用程度をA~Eまでの5段階評価しています。5段階評価により、調査対象企業の総合的な評価を見ることができます。
(2)ステップ2:信用要素の内訳を見る
信用要素別評価の内訳(業歴、資本構成、規模、損益、資金現況、経営者、企業活力)を見ることで、調査対象企業の強みと弱みを知ることができます。
(3)ステップ3:企業の強み弱みを報告書本文の中から読み込み判断する
報告書本文は「業績欄」、「資金現況欄」、「現況と見通しの最近の動向と見通し欄」などに記載されています。
奨励する見るポイントの他にも、登記役員、大株主、従業員設備概要、代表者、系列沿革、現況と見通し(事業内容・会社の特色・業績の推移・資金現況と調達力)、取引先、銀行取引、財務諸表、不動産登記写といった情報が基本収録されています。
東京商工リサーチ|TSRREPORT
東京商工リサーチのTSRREPORTを見るポイントは次の通りです。
(1) A-1、企業概要
資本金や売上など調査対象企業の概要が1枚のシートで分かります。
(2) A-2. 経営者・役員・株主
経営資源の「ヒト・モノ・カネ」のうち、「ヒト」の部分を深く掘り下げています。
(3) A-3. 事業目的・設備・労務状況
調査対象企業の「生産能力」を掘り下げています。
(4) A-4. 扱品・取引先・決済条件
仕入・販売能力、支払・回収状況がチェックできます。
(5) A-5. 資金状況・営業現況・企業特性
メインバンクの有無や関係、過去・現在・未来の経営内容について深く掘り下げています。
(6) A-6. 不動産明細表
調査対象企業が所有する不動産の内訳や詳細、抵当権の設定の有無などが分かります。
(7) A-7. 財務分析
調査対象企業の重要な財務比率事項を一覧表示し、業界平均と比較できます。
(8) A-8. 貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書
調査対象企業の決算書の内容が分かります。
(9) A-9. 推定キャッシュフロー計算書
調査対象企業の資金の流れが分かります。
(10) A-10. 業績グラフ
調査対象企業の業績の主要項目が視覚化できます。
(11) A-11. 決算書グラフ
有利子負債(借入金など)の状況や損益分岐点など、さらに深く分析したグラフです。
(12) A-12. 略式財務諸表
正式な情報が得られない調査対象企業について、インターネットや新聞などから把握できた決算書の数値が記載されています。
(13) A-13. 推定貸借対照表
調査員が取材活動を通じて入手した情報を元に推定した貸借対照表です。
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