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【消費税改正】免税事業者の益税逃れができるタイムリミット迫る

カテゴリ:税務・経理・決算

/公開日:2019年6月14日

「益税逃れ」
免税事業者を比喩する言葉であり、課税事業者との不公平感を表しています。しかも2019年の税制改正により、消費者から預かった消費税をプールできる金額が増える免税事業者が多くなると考えられています。

しかし、国も免税事業者の益税を問題視しており、すでに手を打っています。そこで、益税逃れと資金繰りの関係、2019年の消費税改正の内容、益税対策であるインボイス方式、免税事業者の立場を利用する方法について解説します。

会計

合法的に益税逃れをしている免税事業者

財務省の推計によると、益税逃れをしている免税事業者の割合は全事業者うち6割程度です。それでは、益税逃れと免税事業者について詳しく見ていきましょう。

益税逃れとは

益税逃れとは、消費者から預かった消費税を自社にプールすることを指します。たとえば、小さな八百屋が108円(うち本体価格100円)で顧客に販売したとします。税務署に納めるべき消費税8円を免税事業者は貯金に回すことが可能です。

免税事業者の条件

免税事業者の条件は「前々年度の課税売上高1,000万円以下」が原則であり、消費税が付随する売上を集計した金額のことを指します。ここで押さえておきたい知識は次の2つです。

  • 前々年度の存在の有無
  • 課税売上高1,000万円のライン

益税が資金繰りを有利にしている

免税事業者は益税により、課税事業者より資金繰りがいかに有利であるのかについて検証します。

消費税は滞納の多い税目

消費税は滞納の多い税目です。平成29年度租税滞納状況によると、滞納金額8,531億円のうち3,028億円となっております。所得税などの他の国税よりも群を抜いて高いことから納税者にとって納税資金の捻出が厳しいという事実の裏付けということもできそうです。

参考URL:国税庁

また、消費税の滞納によるリスクを回避できているのも免税事業者の特権です。リスクの具体例は次の通りになります。

(1)ペナルティーが課せられる
滞納すると金利に相当する延滞税などのペナルティーが課せられてしまいます。しかも、税法上の経費に計上できず、節税には全く役立ちません。

(2)融資の引き出しで不利になる
金融機関から納税証明書を求められても、納税しなければ税務署から発行してもらえません。そのため、融資担当者から「支払いにルーズ」と判断される可能性があり、融資の引き出しで不利になる確率が高くなってしまいます。

(3)社会的信用を失う
消費税の滞納額に対して税務署は売掛金を差し押さえる権限があり、実際に行使されれば取引先に対する信用を失ってしまいます。

赤字でも課税されるのが消費税の特徴

そもそも消費税は販売・支払いをするたびに発生する税目であり、業績・所得金額に関係なく発生します。そのため、課税事業者はたとえ赤字で貯金額を食いつぶしても、納税しなければなりません。

益税逃れが批判される理由

「免税事業者の益税逃れが批判される理由」と「課税事業者は赤字でも消費税が課税される理由」は一致しています。それはエンドユーザーから預かった消費税を複数の企業が分割して納付する仕組みになっているためです。具体例を用いてそのメカニズムを見ていきましょう。

例)Aさんが家電量販店で購入したパソコンに対する消費税を10,000円支払った場合

パソコンの流通経路は「原材料業者→中間業者→家電量販店」とします。各業者の納税額は次の通りです。
イ、原材料業者:納税額3,600円=中間業者から預かった消費税3,600円
ロ、中間業者:納税額4,400万円=家電量販店から預かった消費税8,000円-原材料業者へ支払った消費税3,600円
ハ、家電量販店:納税額2,000円=預かった消費税10,000円―中間業者へ支払った消費税8,000円
ニ、消費税の納税額:イ+ロ+ハ=10,000円

単にエンドユーザーから預かった金額であり、赤字でも課税されて、免税事業者だけ消費税をプールできることが益税逃れと批判されるのは当然といえます。

免税事業者の益税は十万単位になるケースもある

納付する消費税の金額は利益率で推計することができます。たとえば、あるサービス業の利益率を6割とします。年商1,000万円の場合、売上税額は「年商1,000万円×税率8%=80万円」であり、納税額は「売上税額80万円×利益率6割=48万円」になります。

2019年消費税改正でさらに益税が増える

2019年10月1日の消費税改正に益税の増額が見込まれて、免税事業者の批判に拍車をかけています。

税率が8%から10%に引き上げられる

消費税の税率が8%から10%に引き上げられるにより、単純計算すると益税は1.25倍に増加します。

例)税抜価格での売上1,000万円、仕入500万円

税率 8% 10% 増加額 備考
売上税額 80万円 100万円 20万円 1.25倍に増加
仕入税額 40万円 50万円 10万円 同上
益税 40万円 50万円 10万円 同上

軽減税率の導入

軽減税率とは、消費税改正後もテイクアウトの飲食代など軽減税率の対象品目の税率が8%のまま据え置かれることを指し、益税は1.25倍により増額する免税事業者が多くなります。典型的なケースはスーパーで食材を税率8%で仕入れ、10%で売る業態の飲食店でしょう。

例)税抜価格での売上1,000万円、仕入500万円

税率 8% 10% 増加額 備考
売上税額 80万円 100万円 20万円 売上税額だけ1.25倍に増加
仕入税額 40万円 40万円 0万円 税率8%のまま据え置き
益税 40万円 60万円 20万円 1.5倍に増加

「消費税の増額=コスト増」の免税事業者もいる

消費税を価格に転嫁できない免税事業者は、消費税の増額がコスト増に直結し、資金繰りの管理がより重要になるでしょう。たとえば、仕入500万円なら仕入税額のみが「40万円→50万円」と10万円の支払金額が増加します。消費税を上乗せして請求できないおもな企業は次の通りです。

  • 得意先が価格を決めている場合
  • 介護業界・障害者施設
  • クリニック・医療法人
  • 住宅にかかる不動産賃貸業

益税逃れができる期限は迫っている~インボイス方式の導入~

免税事業者が消費税をプールすることを国は快く思っていないため、自発的に課税事業者となることを意図してインボイス方式を導入すると考えられています。

インボイス方式とは

インボイス方式の正式名称は適格請求書等保存方式であり、課税事業者の売上税額と仕入税額を厳密に計算する方法のことを指します。具体的には、売上税額と仕入税額を「帳簿から集計する方法」から「インボイス(請求書・領収書など)に記載されている消費税を集計する方法」に変更されます。

課税事業者が仕入税額と認められるのはインボイスと認められる請求書などに限られ、課税事業者のみが発行できます。免税事業者は発行できません。

免税事業者と課税事業者が一目で分かる「適格請求書発行事業者登録制度」

課税事業者に対して事業者登録番号が発番される制度であり、請求書などから免税事業者が見分けが付くようになります。この事業者登録番号こそインボイスと認められる条件です。

益税逃れができなくなる免税事業者

課税事業者を選択せざるを得ない免税事業者のケースについて見ていきましょう。

(1)B to B(企業間)取引をメインとする免税事業者
B to B取引(企業間)をメインとする企業など課税事業者は、同じ支払いなら免税事業者よりも他の課税事業者を選択したほうが消費税の納税額が少なくなるためです。たとえば、中堅企業が税抜価格500万円を支払う場合、課税事業者を取引先に選択すれば税率10%に対する仕入税額50万円節約できます。しかし、免税事業者と取引した場合、同額(50万円)のコストが増えてしまいます。

(2)B to C取引をメインとする免税事業者
個人消費者に対する販売をメインとする免税事業者でも、雑貨店や喫茶店のように企業が支払うケースは十分に考えられます。そのため、同業他社の課税事業者との競争力を維持するためにも、消費税のプールを諦めざるを得ないでしょう。

インボイス方式に移行するまでのタイムスケジュール

インボイス方式に移行するまでのタイムスケジュールは次の通りです。ただし、過去の例のように、時期が変更される可能性があるので注意しましょう。

1. 2019年(令和元年)10月1日:税率引き上げ、軽減税率の導入、区分記載請求書等保存方式の導入(8%と10%を区分したものに限り仕入税額が認められる制度)
2. 2021年(令和3年)10月1日:適格請求書発行事業者の登録の受付開始
3. 2023年(令和5年)10月1日:インボイス方式の導入

免税事業者の立場を利用して消費税をプールしよう

インボイス方式の導入前に起業する

新規開業する事業者は免税事業者になれます。設立年度とその翌年度には基準期間となる前々年度が存在しないためであり、たとえ年商1,000万円を超える規模の企業でも、最大2年間は免税事業者になることが可能です。

法人成りをする

法人成りをする個人事業主も免税事業者になることができます。たとえば、個人事業主がその年の年商1,000万円を超えたら、翌々年から課税事業者になってしまいます。しかし、法人成りをすることで、設立間もない企業に同じように免税事業者になることが可能です。

免税事業者のはずが…実は課税事業者だったケース

免税事業者として消費税の益税の恩恵を受けるつもりだったのに、実は課税事業者になってしまうケースがあります。おもに次の通りです。

  • 設立当初の資本金が1,000万円以上
  • 同族会社など既存の企業が分社化した場合
  • 被相続人の事業を承継した個人事業主

税務調査で課税事業者と指摘された場合、誤ってプールしていた消費税が数年分になるため、金銭的リスクが大きくなります。免税事業者になるかどうかの判断に迷う場合は専門家に確認することを検討しましょう。

まとめ

多くの中小企業にとって、益税逃れができるのはインボイス方式が導入されるまでになるでしょう。そのため、免税事業者の立場を利用して、消費税をプールできる期限が設けられていると見るべきです。2019年の税制改正を機に今のうちから益税を把握し、課税事業者を選択した後の資金繰り対策に役立てましょう。

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